振り返ってみると、「今にして思えば…」と思うことが、いくつかありました。もちろん、これは結果論ですが…。
まずは、2月に一が我が家に遊びに来た時の事です。
彼は、いきなり、DVDを取り出し、今日はこれを見ると言いました。それは、遺書に記載のあった「アイドルマスターシンデレラガールズ」でした。
これまでも、飲みに行った時に、よくお勧めのアニメについて、熱く語っていました。
しかしながら、そのこのようにDVDを持参してまで勧める事はありませんでした。彼の勧めに自分が納得してその番組を見始めてはじめて、放映済み作品のDVDを貸してくれる事はあったのですが…。
今にして思えば、既にこの時点で彼は、この作品が「人生最後に好きになったアニメ」と決めていたのでしょう。
そして、もはや、残りわずかとなった自分との飲み会において、それを語る必要があったわけです。さらに言えば、自分の葬儀の際、この作品で送ってほしい、とまで考えていたのかも知れません。
また、春先に、新規のWEB制作を獲得しようと企画をし、彼に宣伝物の制作を頼んでいました。しかし、いつまで待っても作ってきません。
その時は、「もう一つの会社から頼まれている仕事が忙しいのだろうな」と思って待っていました。しかし、今にして思えば、これも「10月以降は新たな仕事をしない」というつもりだったゆえの事だったのでしょう。
とはいえ、月に1〜2回飲みに行った時の様子は、いつもと全く変わりませんでした。
美加さんと三人で行けば、二人でゲームやアニメの話で盛り上がっていました。
もちろん、死をほのめかすような発言は一切ありませんでした。自分と二人で飲んだ時も、まったくもっていつも通りでした。
そして、10月1日に三人で飲みに行きました。この時も、美加さんと楽しそうに話し、最後にはボトルを追加していました。まさか、この時が彼と最後の飲み会になるとは夢にも思いませんでした。
さて、9月末から、ホームページ制作を受講したい生徒さんが入会しました。
10月8日にその生徒さんの二度目の授業がありました。終了後に翌週の受講時間を決めました。その時、自分は当時計画していた、教室を安い家賃の所に移転する話を彼にしました。
その話を聞くと、彼は「じゃあ、これはもういらないね」と言って、私に預かっていた教室の鍵を返そうとしました。驚いて、「まだ移転まで一ヶ月あるよ。だいたい、来週の授業もあるじゃない」と言ったら、戻しました。
結果的に、このやりとりが、彼との最後の会話になりました。
15日に行う授業の予約が先方の都合でキャンセルとなりました。
そこで彼に、その旨を伝えたあと、代わりの授業日程を調整するため、「もし来週以降で夕方がダメな日がありましたら、教えてもらえれば幸いです。」とメールしました。
すると、その返事は、「来週はちょっと忙しくなるので月曜日以外は無理な感じになります。 再来週以降は未定です。 」でした。
この時点で彼は、19日の月曜までは仕事をし、20日以降は、人生を締めくくると決めていたわけです。よく見ると、この返信、何一つ嘘は書いていません。そのあたりも彼らしい、と納得しました。
そして、これが彼との最後のメールのやりとりとなりました。
それ以降の彼の足取りは以下のとおりです。
- 10月21日、秋葉原のホテルに投宿(予約は9月23日に取っていました)。22日午前2時58分、ツイッターに「しめやかに永眠四散します。サヨナラー!」と書き込む
- 10月22日、一度目の自殺を試みるも失敗(本人が遺したメモより)
- 10月23日午前11時、父からの電話を受け、自分が一の部屋に。インターフォンを鳴らしても反応がなかったが、裏のベランダの窓を叩いたら、眠そうな顔で起きてきた。起こしてしまった事を謝って帰る。それが彼との最後の出会いに。(本人のメモには「兄訪れる」と記載)
- その日のうちに、「二度目の自殺に挑む」(本人のメモより)。夜の21時半頃、自分が警官とともに行くも、鍵はなく、窓も破れず入れなかった。死亡推定時刻は22時頃とのことだった。
翌朝、警官・不動産屋立会のもとで部屋に入りましたが、既にこときれていました。
3年くらい前までは、よく部屋に遊びに行っていました。また、2年ほど前までは、当時つきあっていた彼女を部屋に泊めた話をしていました。
しかし、その彼女と別れてからは、ほとんど掃除はしていなかった感じでした。
ただ、翌日、警察の現場検証が終わって、中にはいったら、台所だけはきれいでした。食器も洗って伏せてあり、生ごみも残っていませんでした。

パソコンには、付箋が三枚貼ってありました。一つは、ホームページを制作を依頼されていた会社の連絡先と進捗情報が書かれていました。もう一つにはキャッシュカードやインターネットで使うパスワードが書かれていました。そして、最後の一枚には、先述した10月22日からのメモと、遺書の入っている場所が書かれていました。
繰り返しになりますが、今振り返れば、言動やツイッターなどの節々に、今回の事を意識しているものがありました。
とはいえ、あくまでも「今振り返れば」です。それ以外は、日常会話も、ツイッターでの書き込みも、まったくもって普段通りとしか言いようがありませんでした。
このあたりからも、遺書にあった「予定の通り死ぬ」が率直な本音だった事がよくわかります。
彼にとっては、自分の教室で授業をした事、ホームページ作成の仕事を仕上げた事、アニメを見て感想をツイッターに書く事、我々と飲みに行く事を予定通りこなすのと同じ感覚で、予定通りこの世に別れを告げたのでしょう。
それだけ自然な行動なのですから、不審な兆候になど気づきようがありません。
余談ですが、財布に入っていた診察券を見て、警官は「精神科に通っていたようだ」と言っていました。この類の事件ではよくある話だからでしょう。しかし、調べた所、診察券に書かれた病院は普通の内科でした。ある意味、警官の常識の範疇も超えていた心理状態だったと言えるのかもしれません。